新刊『新版アニマル・マシーン』

『新版アニマル・マシーン 工場式畜産を問い直す動物福祉思想』

この度、ルース・ハリソンが1964年に著した記念碑的な一冊『アニマル・マシーン』が、ついに復刊されます。もしこの本が存在しなかったら、現代の動物福祉思想はこれほど深く、そして広く根付くことはなかっただろうとまで言われる、その歴史的意義は計り知れません。

本書は、当時の欧米で急速に進展していた「工場畜産」の衝撃的な実態を、徹底した調査と克明な描写で告発しました。効率化の名のもとに、動物たちが生命を持つ存在ではなく、単なる生産物、「アニマル・マシーン」として扱われる冷酷な現実を白日の下に晒したのです。狭いケージに閉じ込められ、身動きもままならない鶏、豚、そして牛。その劣悪な飼育環境と、動物たちの痛みや苦しみを直視しない人間のあり方に対し、ハリソンは痛烈な異議を唱えました。

『アニマル・マシーン』は、動物を単なる資源としてではなく、痛みや喜びを感じる生命体として捉える「動物福祉」という概念を社会に強く提示し、世界の動物保護運動に決定的な影響を与えました。ピーター・シンガーの『動物の解放』をはじめ、後の動物倫理思想の基礎を築き、イギリスの動物保護法制定にも大きな影響を与えたのです。

環境問題、食の安全、そして生命倫理が問われる現代において、動物との共生を真に考える上で、本書の問いかけは今なお色褪せることはありません。復刊される『アニマル・マシーン』は、私たちに改めて動物の尊厳と人間の責任について深く考察する機会を与え、未来への持続可能な社会を築くための必読の一冊となるでしょう。

書誌情報

  • 価格 3,500円(税別)
  • 四六判 縦188mm 横128mm 厚さ46mm
  • 472ページ 並製
  • ISBN 978-4-9913275-2-0

著者プロフィイール

ルース・ハリソン  (ルース・ハリソン)  (著)

Ruth Harrison/ルース・ハリソン(1920-2000)は、イギリスの動物福祉活動家、ジャーナリストです。1964年、著書『アニマル・マシーン』で集約畜産(工場式畜産)における動物たちの非人道的な飼育実態を告発。劣悪な環境で苦しむ動物の姿を世に知らしめ、社会に大きな衝撃を与えました。同書は、イギリス政府による「ブラムベル委員会報告書」発表のきっかけとなり、現代の動物福祉法制の基礎を築く上で極めて重要な役割を果たしました。彼女の功績は、動物福祉運動の発展に多大な影響を与えています

目次

  • 訳者まえがき
  • 日本語版への序文
  • 緒言
  • 謝辞
  • 第一章 序論 なにかが間違っている
  • 第二章 ブロイラー・チキン 合理化の極限︑近代養鶏
  • 第三章 ニワトリ処理場 <製品>となるための最後の恐怖
  • 第四章 ケージ養鶏ニワトリ<工場>の狂気
  • 第五章 ヴィール・カーフ 貧血地獄にあえぐ幼い命
  • 第六章 家畜工場のいろいろ 他の動物の場合
  • 第七章 “たべもの”の質とは <食品>ではなくてたべものを
  • 第八章 食品の“質”を問う  毒物の洪水のなかで
  • 第九章 動物の虐待と法的規制 動物にも苦痛はある
  • 第十章 結論 動物と人間の健康のために
  • 参考文献
  • 解説
  • 付録 ハリソン女史会見記
  • 訳者あとがき

版元から一言

1970年代に講談社から翻訳出版され、早50年が経ちました。現代の動物福祉思想の原点となる同書を、この時代に改めて復刊できたことを嬉しく思います。昨今、鳥インフルエンザの発症頻度が上がっており、わたしたちは毎年何千万羽もの鶏たちを殺処分しています。その要因となるのが、工場型畜産とも呼ばれる手法です。わたしたちは、鶏だけでなく、牛も豚も単なる機械として認識しているから、そのような所業ができるのかもしれません。いま読んでも全く色褪せることがないのは、わたしたちが50年前から一向に前に進んでいないことの証左かもしれません。肉も卵も全人類に関わる内容です。多くの方に読んでいただきたい書籍です。

挿画

挿画はイラストレーターの石橋澄氏にご担当いただきました。石橋さんが描く世界観、そして動物の姿は同書との相性も良く、『新版アニマル・マシーン』の世界観を表現していただいたと思います。

まえがきを掲載いたします

本書の原著は一九六四年にイギリスで出版された。それからすでに一五年が過ぎており、この間の事情については巻末の著者インタビューを付すことにより補うことにした。なお欧米諸国の畜産事情が、これまでのところわが国のそれを一〇年先んじていたことを考慮すれば、本書で触れられている実態はまさに今日の日本の畜産そのものとさえいえる。


あとがきで述べるように、初版の発行は、レーチェル・カーソンが『沈黙の春』(邦訳『生と死の妙薬』新潮社刊)を世に出して、農薬依存の近代農業を批判したのと時をほぼ同じくする。『沈黙の春』は欧米はもちろん、日本においても、またアジア諸国の知識人たちにも測り知れない影響を与え、近代農業技術を農薬使用の側面から批判することは今では世界中の常識になったとさえいえる。しかし、そのような近代農業の病態は、なにも単に農薬による汚染や危害にとどまっているものではない。そして動物生産や植物生産においては、農薬使用の問題はその一部にすぎない。本書に述べられているように、動物生産(畜産)の工業化においても、近代農業生産技術がもたらした病態の進行はきわめて顕著である。ところが、植物生産 (作物栽培)において農薬が使用されたり、プラスチックなどの石油化学製品が利用されたりすることを批判的に認識する人びとが多くなったのにくらべれば、工業化された生産技術が家畜飼育にどのようなかたちでとり入れられ、そのためにいかなる問題が起こっているのか、ということについては、まだまだ十分には理解されていない。しかも批判的検討は未熟な段階にあると思われる。

本書は、上述の意味で、なお今日的な役割をもつものと訳者らは考えている。しかし、読者にとっては本文中のイギリスの事情の記述そのものには第一義的な関心はなく、むしろ日本を含む今日の畜産の情況を知り、批判的に考えるための手だてこそ必要なことであろう。したがって本書は、原著の翻訳にとどまらず、日本の畜産を考えるなかで、卵や肉を良くするにはどうしたらよいかを考えるための読みものになるよう工夫された。(一九七九年七月一日)