今回ご紹介するのは週刊少年サンデーで連載中の「君と悪いことがしたい(作:由田果)」です。
綿谷まもりは、背は高いけど暗くて地味な日陰な女子高生。彼女がある日出会ったのは、小さくて細い体で悪そうな笑みを浮かべる藤奏志。誰にも見つけられない脇役と、誰にも好かれない悪役。二人の出会いが、灰色の日々を青く塗り替えてゆく。脇役女子×悪役男子。主役になれない二人の恋物語が、幕を開ける!!
少年サンデー公式サイトより引用
主要登場人物紹介
綿谷まもり(まもり)
背は高いが、地味で暗めな高校1年生。いろいろと押し付けられる事が多い気弱な性格。悪役に憧れていて「キングダークネス三世」が好き。
藤奏志(藤くん)
体は小さいが気は強すぎる高校1年生。身体が弱く長く病院にいたため、同級生より3つ年上。巨大企業グループの子息だが、その性格と振る舞いで校内随一の嫌われ者になっている。
藤晃一
奏志の弟。何をやらせても超優秀。イケメン高身長で性格も良く、学校内で王子と呼ばれている。
この作品の特徴は以下の点にあるのではないか。
”自分ではどうしたら良いか分からない”と考えるまもりが、“好き嫌いが明確な”藤くんに引っ張られる形で自己を解放していくプロセス
悪事を共有することで互いの距離を詰めていく二人
嫌いだから。他に理由がいるか?
これは第1話で藤くんがプールの水を抜く理由を問われた際、まもりに答えた内容だ。
自分が好きなこと、望むことを主張して貫き続けることは他人との軋轢や摩擦をうむけれど、自分を押し殺して生きていくのはそれ以上に苦しい。どうしたら良いか分からない。
若い人たちの中にはそう考える人が多いと思うのだけれど、最近のサンデー新連載群はそういった悩みを抱える読者に「好きなものを好きと言っていい」「好きなものだけを理由に生きて良い」ということを伝えようとしているように感じている。同時期に連載を開始した「ビグネス参式」の主人公ハルトも、怪物と戦う理由なんて「オタク趣味を守ること」それだけでいいと伝えている。私たちは自己を解放するための理由を欲している。
https://note.com/otaniacs_jpn/n/nc09ea8f3a0f0
ちょっと大袈裟だけれど、ここで尾崎豊の「15の夜」を引用したい。
盗んだバイクで走り出す 行き先も解らぬまま
尾崎豊「15の夜」より
暗い夜の帷の中へ
誰にも縛られたくないと 逃げ込んだこの夜に
自由になれた気がした15の夜
(一部抜粋)
この歌詞を改めて読んでみると、尾崎の自由を希求する姿を今でも強烈に感じることができる。彼が主張するのは、やり場のない気持ち、縛られたくないという気持ちだけれど、その感情をどうしていいか解らない。校舎裏でタバコを吸ってみる、バイクを盗んで夜の街を走ってみる、社会に抗ってみる、自由になれたのかも。
尾崎がこの歌を歌った1980年代からもう40年が経つ。経済も発展して生活も豊かになってきたけど、未だに私たちは自由を求めている。職業選択の自由、学校に行く(行かない)自由、色々な自由を制度上は手に入れた気がしたけど、まだ本質的には変わっていなかったのではないだろうか。
これも同誌で連載中の「よふかしのうた」も学校では真面目で友達も多くて一見恵まれていそうな夜守コウは自主的に不登校を選択して夜の街を楽しんでいる。コウはコウなりの自由を求めていたのだろう。自由はそれを求める人によって姿形を変えているから。
現在の週刊少年サンデーの新連載群に共通するテーマは「自由」だ。
これらの作品が多くの少年少女に少しでも生きやすい世の中を見つけるキッカケになってくれることを祈る。